精密な型取りが被せ物の決め手
型取りとは
むし歯治療も終盤に差し掛かり、「では歯形を取りますね」といわれた経験がおありだと思います。歯の上からぐにゅっとしたものを押し当てられ、数分後、その固まりをべりっと剥がされて終了となります。この歯型をとることを「印象採得」といいますが、剥がされた固まりの内側には患者さんの歯の形態が正確に写し取られていて、ここに石膏を流し込んで歯型の模型を作り、この模型をもとに詰め物や冠などを製作します。
詰め物や被せ物など補てつ物の治療で重要なことは患者さんの歯(支台歯といって被せ物の土台とするために削った歯)の形態と被せ物とがぴったりと合うことです。精密に合致していないと歯とかぶせ物の間、あるいは歯肉との間に隙間ができて、そこからむし歯になったり、プラークがたまりやすくなって歯肉が腫れたりするからです。むし歯の再発や歯周病の原因にならないよう印象採得に気を使うのはこのためです。
その意外な材料
歯型を取るときに使う材料のことを「印象材」といいますが、意外にも私たちの身近なものが使われていて、1937年に印象材として初めて導入された寒天印象もその一つです。現在は寒天とアルジネートという材料の2種類を使う「連合印象法」に用いられています。寒天材はその90%が水分なので強度が低く、アルジネートと組み合わせることでその弱点が補われるためで、精度も出て操作も容易なので保険診療では一般的に用いられている方法です。
アルジネートの主成分はアルギン酸ナトリウムと石膏ですが、この聞き慣れないアルギン酸ナトリウムは海藻などに含まれていて、私たちがよく口にするかまぼこなどの練り製品を固める際に使われています。寒天やかまぼこと聞くと印象材との距離が一気に縮まってくるのではないでしょうか。
一方、より精密な型取りが要求される場合はシリコン印象材といって、シリコンラバーを材料としたゴム質系の印象材を用います。細部まで精密に型取りができるメリットがありますが、材料費が高く、保険適用にはなっていません。主にインプラントやセラミックの被せ物などの際に使われます。
型取りをする際にトレーを口腔の奥の方まで入れるので嘔吐反射が出て苦手という方も少なくありません。そうした方は遠慮なく申し出ていただければ、印章材が早く固まるように調整するなどできるだけ配慮しますのでご安心ください。
最近は口腔内スキャナーによるデジタル印象という方法も開発されており、カメラのように口腔内をスキャンして3D画像として再現するというものです。こうした機器の進歩によって患者さんの負担が軽減されることに今後も大いに期待したいものです。
精密な型取りのためにも健康な歯肉が欠かせません。歯肉が腫れていたり出血していては正確にでからです。もちろんしっかりと治療をしてからからということになりますが、引き締まった歯肉を維持するように普段から口腔ケアに気を配りましょう。