最近増えている味覚障害にご用心
味覚は大切です
私たちが食事を美味しいと感じるのは味覚があるからこそですが、現代人にこの味覚の異常を訴えている人が増えているというのです。
そもそも人が舌で感じることができる基本的な味覚は甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5種類です。辛味は違うのかと不思議に思われるかもしれませんが、じつは辛味は味覚ではなく、痛覚や温覚に分類されます。英語で辛いものをHOTと表現することにもうなずけます。ちなみに旨味は日本人によって発見され、その成分はグルタミン酸やイノシン酸、グアニル酸等があげられます。いわゆる出汁の味ですが、この旨味を感じなくなると食欲も低下し、食べる楽しみもなくなることから生きる意欲まで失ってしまうこともあるそうです。
こうした味覚に異常を感じる状態を味覚障害といいますが、その症状もさまざまで味覚が感じにくくなる味覚減退や味がまったくしなくなる味覚消失のほか、何も食べていないのに特定の味が持続する自発性異常味覚、本来の味と異なった味に感じられる異味症、特定の味覚のみが感じなくなる解離性味覚障害などがあります。
過度の舌の清掃にはご注意を
味覚障害の原因の約半数は亜鉛不足といわれています。味覚は舌の表面にあるぼつぼつとした突起物である味蕾に中に存在する味細胞が感知します。この味細胞は体内の細胞の中でも非常に短い周期(約1ヶ月)で生まれ変わっており、その細胞の再生に亜鉛が重要な働きをしているのです。亜鉛が体内に不足すると味細胞が生まれ変われなくなってしまい、味覚障害を引き起こしてしまうのです。
そのほか薬の副作用や口腔カンジダ症やドライマウスなどの口腔疾患、嗅覚障害による風味障害などさまざまあり、高血圧や糖尿病、高脂血症などの全身性疾患によることもあります。
高齢になると味覚が鈍くなるといわれますが、これは味蕾の総数が高齢者では新生児の半分から3分の1程度に減少してしまうためで、加齢の影響が否めません。
また、歯科医として見逃せないケースが増えてきていて、それは若い人に多いのですが、口臭を気にするあまり舌のお掃除を過度にされてしまうケースです。味覚障害で受診されたある患者さんは1日3度の歯磨きのたびに舌の表面も歯ブラシでごしごしとこすっていたそうです。そのため、舌の表面にある味蕾が傷つき、味センサーが破壊されて味を感じなくなってしまったのです。
舌のお掃除には市販されている専用の舌ブラシを使って、表面を優しくなでるようにして、回数も1日1回で充分です。
味覚に違和感を生じる場合は耳鼻咽喉科や内科のほか歯科でも受診できます。原因にもよりますが、亜鉛の錠剤や唾液の分泌を増やす薬の投与による治療で傷ついた味蕾は再生されて1〜3ヶ月程度で症状が改善される場合が多いのでご安心いただければと思います。
お口の中の汚れや唾液の減少など味覚を鈍らせる原因ともなるので、普段から口腔ケアを心がけるほか、亜鉛を多く含む食品(牡蠣、小麦胚芽、牛肉、豚肉赤身等)を意識的に摂ることも忘れずにお願いします。